ラルフへ

ラルフとラルフママさんへ 




 グレイの上に流れる時間は永遠にあるようで、この本に散らばった短い物語たちも、グレイの気分と絵描きの気分で伸びたり縮
んだりしたお散歩の道も、グレイという存在さえも実は大きな長い長いユメの中のものだったような気がする。

 グレイが死んだ。

 それはあまりにも突然、しかし宇宙の構成の中ではきっと、はじめからしくまれた通りにやってきた。グレイの悪性の進行ガンの
発見と「余命一、二か月」の告知は同時だった。

 五才のたん生日は、アトリエ中にしきつめた紙おむつのじゅうたんの上でむかえた。私はアトリエでグレイと寝起きを共にし、好奇
心と発見でいっぱいになるはずだったお散歩ノートは末期ガンの犬の闘病日記になり、絵描きのスケッチ帖はあっちむいたりこっ
ちむいたりごろごろした犬のスケッチで埋まっていった。もう外にはほとんど出られなかったから、犬と絵描きは毎日毎日ゴルドベ
ルグ変奏曲やモーツァルトのアヴェベルムコルプスやクラリネト五重奏をきいていた。

グレイはゴルドベルグがいちばん好きだった。

「時の観念も死への不安も、ヒトが作り出したものにすぎないから、イヌは臨終かもしれない今日を平気なカオして生きていられる
のです。」

 おおいかぶさって全身で、あっち側へ行こうとする犬をつかまえようとする私に、獣医が言った。グレイは大病の中にあっても、死
ぬかもしれないその日をまっているようにも、治るかもしれない明日をまっているふうにもみえなかった。

 「おかあさん、グレイが星見てるよ。」

 大Mが夜の玄関で叫んだ。逝く一ヶ月程前の深夜のこと。開け放たれた玄関のたたきで伏せた姿勢のまま首だけ上げて吸いこ
まれそうな紺色の空をずーっとみつめていた。

〈おかあさん。ほらお空のペカペカチカチカ綺麗だよ。あれはきっとおいしいものだよ、ね〉

 病気になってもグレイはグレイだった。でもその目はおどろくほどおだやかでかつてないほど遠くをみていた。


 空一面に羽毛のような巻雲や、うすくひきのばされて透けそうな和紙のような筋雲が広がる夏の夕まぐれ、グレイは空へ駆けて
行った。

 それからは私は、風をおいかけることも 季節が変わることも 時の存在も忘れた。欲もおしゃれもなく 夢も発見もなく ことばさ
え忘れ 私はただのおばさんになった。

 みえない犬と暮らしはじめて三か月たとうとしている。

「気配」というものは「存在」「実在」あってこそ感じるものらしい。「気配」だけでも感じたい、と思っても想像力を駆使して「不在」とい
うフィルターを通して逆説的に思い起こすしかない。グレイの呼吸やいびきや爪の音おしっこの音は、耳の中に残っていてふいを
突いて思い起こされるが、それは「気配」ではなく。

たおれたグレイからまっ先に「声」が失くなった。「走る」「とびつく」「ひっぱる」がだんだん消えていってやがて、「食べる」「のむ」も消
えて、最後に目だけが残った。時々ムクリと起きあがって思い出したようにこちらをみつめる目だけが、静かに消えていく姿の中で
黒々とまっすぐ残った。「気配」を感じたい、と思う時(しょっちゅうしょっちゅう切望する)私はあの二つの目を思い出すことにしてい
る。

 グレイが本当は何を待っていたのか、私はとうとうききそびれてしまった。

                                                   1996年 晩き秋に

「グレイがまってるから」より






 気持ちを共に。

 ラルフのご冥福を心よりお祈りいたします。




 ロビンが骨肉腫を発症した時に、何人かのママさんから「うちの子も~」というコメントを頂きました。

 それからはお互いに励まし合いながら闘病生活を送って来ましたが、本当に骨肉腫とは重い病気です。

 特に若い子は進行が速いようで、もう治療もこちらの気持ちも追いついていきません。

 皮肉なことに年寄のロビンが長らえています。

 冬が越せるかな。

 レイネ、迎えに来るなよー。



ああ、だめだ、涙が止まらん。

でも、明日仕事だから、もう寝るし。

明日の朝、すっごい不細工な顔になってるだろうな・・・・・・
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No title

はじめまして。
ジャスママさんのブログ、楽しく見てます。
今回は、涙、涙になってしまい思わずコメント入れてしまいました。
だって、うちの子の名前、グレイだし。
でも、泣けたのは、6月に亡くなったジン君のことで胸がいっぱい苦しくなりました。グレイで、今我が家は賑やかですが、ふとした時に、無性に悲しくなります。
でも、時がゆっくりゆっくりゆっくり癒してくれますよね。

to グレイ母さん

 コメントありがとうございます!

 家族を亡くすことは誰にとっても本当にこれ以上悲しいことはないくらい悲しいことですね。

 ジン君のこともお悔やみ申し上げます。

 
グレイ君、順調に育ってますね!とってもきれいな坊やですね。
 うちのネリのすけはやんちゃ盛りで周りの大人たちも手を焼いています。まあ、見ていて飽きないですけどね。
 
 6月に行われる大きなドッグショーでそちらの方へ行けたらいいなと毎年思っているのですが、何しろ大所帯なものですからなかなか。

 いつかお会いできる日を楽しみにしています。

No title

一向に収まる気配の無い喪失感に、最近はネットからも遠ざかりがちでした。

ラルフくん、逝ってしまっていたなんて。

15日と16日、珍しくヴィの気配が有ったんです。

ご冥福を心からお祈りしましょう。
もう痛くも苦しくも無いから。
よく頑張ったね。
お利口さんだったね。

No title

ジャスママさんありがとうございます。

これは実話ですか?小説ですか?
今の私の気持ちに響きすぎて、
涙、涙です・・・・

私もラルフの気配を感じたいけど、
今はここにまだ居ると信じたいだけです。
でも家のニャンコが、ラルフの大好きだった
ソファーの定位置の空をじっと見てた時、
絶対居ると確信しました。

ロビンちゃんはみんなの希望の星です。
絶対このまま寿命をまっとうできますよう
祈ってます!

to ふじこさん

ふじこ~、いつまでうじうじしてるのよー。
ちゃんと仕事しなさいよーって虹の橋の向こうからヴィーちゃんの声が聞こえてきます。

 今頃ラルフと一緒に笑いながら走っているよ。

でもね、ラルフママさんと同じ、時がすべてを癒してくれるから。ちょっと時間はかかるけど。
 もう少し、悲しみに身を委ねてもいいかな。

 

to ラルフママさん

 お友達のブログ、拝見しました。

 イケメンラルフ。 ママさんの悲しみがどんなに大きなものか。

 でも、誰かと共有できれば半分になります。私とふじこさんがいれば

 三分の一になりますよー。

 このお話はどうやら実話をもとに書かれているようです。

 犬種は違いますが、共感できる部分がたくさんあって、ついつい皆さんに紹介してしまいました。

 アマゾンでまだ売っているかもしれません。よかったら読んでみてください。

 愛犬を亡くした人は、もう二度と同じ悲しみを味わいたくないと思って、もう犬は飼わないと頑なになってしまうことが多いようですが、
それはとても寂しいことだと思います。

 まだまだお若いラルフママさんには、どうかわんこと共に生きる人生を再び迎えて欲しいと思っています。

 ラルフへの思いが懐かしく美しい思い出になった頃、それがいつのことかは分かりませんが、きっとママさんが新しい人生を歩き始めると信じています。
プロフィール

ジャスまま

Author:ジャスまま
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ボルゾイブリーダー
犬舎名 エカテリーナJP
動物取扱業 茨城県第2175号
水戸市在住

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